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運命の日なんて大げさじゃないけど、と透は一応ネクタイだけは新調すると念入りに鏡の前でチェックする。 
あの日別れて以来だから6年振りの再会になる。 
彼は変わっただろうか? 
自分は変わったのだろうか? 
昨日は考えすぎてあまり眠れなくて、少し目が腫れてる気がしないでもないけど、と思いながら透は会社へと向かう。 
この前の会議で新たな取引先がほぼ決まりその一社に「羽澤彰人」の名があったのだ。 
名前が載ってるのだから、今日来るかもしれない、そう思ってはいるけれど透は営業では無いので直接関わる事は無い。 
せいぜい姿を見るくらいかもしれない。
でも、姿がみれるかも程度に気合をいれ身支度をしてきたのだ。 
そして、透は恋する乙女みたいな女々しい自分に内心苦笑すると気合を改めて入れ直し仕事の事を考えだした。 
 
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「はよ〜。」 
「おはよう。・・・何で、疲れてんの?」 
背後から疲れた声でやって来た同僚に透は驚いて問いかける。 
「なんで・・・って。おまえ、余裕だな。今日は取引先が来るから企画書提出するんじゃなかったか?」 
「・・・ああ、あれね。でも、期日迄でも良いって・・・」 
「そりゃ、そうだけど、直に見てもらえたらアピールできるじゃん。」 
「なるほどね、ご苦労様。」 
頷き答える透に同僚は苦笑すると自分の場所へと戻っていく。 
出世が全てじゃないけれど裏がある大人の世界に透は未だに慣れない。 
欲が無いのはもちろん、競争は昔から苦手だったからだ。 
気を取り直し仕事を始めだしながら透は成長してない自分に苦笑を漏らす。 
取引先ご一行は10時頃から何組かの団体で会社に来ていた。
  
何組目かの取引先に透が再会を待ち望んでいた彼の姿があった。 
パソコンの影からそっと盗み見ただけの透はすぐに彼が羽澤彰人だと分かった。 
気づいて欲しいと思いながらも気づかれない方が良いと矛盾した事を考えながらひっそりと彰人を見る。 
会わない間にがらりと変わったわけじゃなくて年相応の落ち着きや貫禄を身につけた成長による変化だと思う。 
整えられた髪形やスーツの似合う体型は社会人としての立ち居振る舞いを感じさせられたし元気でいてくれただけで透は嬉しかった。 
下を向き安堵の溜息を漏らした透は視線に気づき顔を上げる。 
ばっちりぶつかる視線から先に逸らしたのは透の方だった。 
再会の日を待ち望んではいたけれど------心の準備が出来てないし、話すつもりも無かった。 
透は顔を上げる事も出来ずに早く去ってくれる事を必死に願う。 
逸らした目を無かった事には出来ずまして今更顔を上げる事も出来ずに透は息苦しさを感じる。 
「・・・久しぶり、だよね?・・・名瀬透だろ?」 
頭の上から聞こえる声に透は渋々顔を上げる。 
なんとも言えない複雑な顔をしてる彰人が立っていて、透は声も出せずただ頷く。 
 
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「叔父の紹介でバイトに入ってからずるずると居続けて社員になったんだよ。」 
胸元から取り出した煙草に慣れた手で火を点けると一息ついて彰人は話し出す。 
あれから、ちょうど昼休憩に入るからと強引に透を連れ出した彰人と食堂の隅の喫煙所に居る。 
なにか聞こうと透の顔が訴えていたのか彰人は煙草を吸いながら話し出す。 
「・・・両親には?」 
「・・・落ち着いてから連絡したけど、実家には帰ってないな〜。透は?ここにはいつから?」 
「大学卒業してからだから、もうすぐ二年だよ。」 
笑みを浮かべる透に彰人はそっか、と溜息を漏らす。
「・・・そんなになるんだ。彼女とかいる?」 
「・・・いないよ〜忙しくて暇が無いんだよ。・・・彰人は?」 
間を空け問いかけて来る彰人に透は苦笑を漏らし答える。
「夢を・・・見るんだ・・・毎晩、あの女が出てくる・・・」 
問いかけに呻く様呟く彰人を透は驚いて見る。 
「あの町出て別の暮らしをして忘れたかった。・・・あの時、俺の大事なもの全部捨てたのに─────。」 
「彰人」 
名を呼ぶ事しか出来ない透に彰人は少し笑みを返す。
「・・・俺は悪くないって言い聞かせても、夜寝るとあの女が出てくる。」 
月日が流れても消えない傷は誰だって持ってるけれど、彰人のそれは深すぎたのかもしれない。 
そう思うと透は何も言えずにただ彰人を抱き寄せる。 
「─────あの日もこうしてくれたじゃん、おまえ?」 
「・・・・・。」 
「・・・居心地良すぎて、やばかった。」 
抱き寄せた透の胸元に顔を埋めたまま呟く声音は微かに震えてる。 
「彰人?」 
「・・・言うつもり無かったんだよ。なのに、あまりに居心地良すぎて言わなくて良いこと迄言うし、尚更、居辛かった。・・・どんな顔して透と会えば良いって考えると余計会い辛くて・・・それで、逃げました。」 
意外な言葉に透は思わず問いかける。
「え?・・・逃げたって・・・」 
「・・・あの女の事より、お前に会うのが怖かった。・・・もう『友達』じゃいられない俺がいたから。」 
煙草を銜える彰人はそれ以上なにも言う気が無いのか白く流れる煙りをぼんやり眺める。 
「・・・ぼくは彰人に会いたかったよ。」 
拳を握り締め呟く透に彰人は目だけを向ける。 
「もう会えないって気づいたら、会いたくてたまらなかった。でも、いざ会えたら何て言ったら良いのか分からなかった。ぼくはちゃんと彰人が大切でぼくだってもう『友達』以上だったのに・・・」 
泣きそうになったままの透に彰人は笑みを返す。 
言葉よりも温もりを確かめたくて再度抱きついてきた透に躊躇いながらも彰人は頭を撫でてくれる。 
 
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「で?・・・何するの?」 
仕事後彰人に部屋まで誘われた透はベッドへと押し倒されてから呆然と問いかける。 
「だからナニ。・・・俺のモノにしとこうと思って・・・」 
「─────っ!ぼく、まだ・・・」 
驚いて逃げ出そうとする透を彰人は抱きしめてくる。 
「怖い?」 
耳元に甘く問いかける声に透は眉を顰める。 
「俺、我慢できないんだけど、ダメ?」 
問いかけながらも体を弄る彰人に透は溜息を漏らす。 
「・・・痛いのは、やだ。」 
「うん。」 
諦めたのかぼそりと呟く透に彰人は笑みを浮かべ頷く。 
そうして軽く触れるだけのキスを繰り返してきた彰人に透は自分の意思で手を伸ばす。 
「・・・んっ!・・・あっ、そこは・・・」 
あらぬ場所を嘗められ探られ性的な経験値がほとんど皆無に近い透は快感に忠実に身を任せる。 
さんざん酔わされくちゅ、くちゅとあらぬ場所から響く部屋の中には会話もなく互いの息遣いしか聞こえなかった。 
「・・・透、挿入るよ。」 
耳元で囁く擦れた声に頷いたのかも分からない。 
ぐちゅ、と卑猥な音と共に堅いそして熱い肉棒が体の中へと埋め込まれていくその感覚に透はぎゅっと瞳を閉じ唇を噛み締める。 
─────じゃないと自分でも想像できない声が出そうだったから・・・。 
痛みよりももっと別の感覚が体中を駆け巡る。 
噛み締めた唇にぬるりとした感覚を感じ透は閉じていた目を開く。 
目の前に彰人の顔がある事を認識してからキスされてる事に気づき唇をそっと開くと隙間から舌を差し込まれ舌を絡め取られる。 
「・・・彰人・・・」 
「動くよ、良い?」 
キスの合間に名を呼びかける透に問いかける彰人が中に入ったままなのを思い出し透はこくこくと首を振る。 
「・・・我慢しないで、声・・・聴かせて」 
囁いてゆっくりと慎重に腰を動かす彰人の動きに連動してるのだろう、ぐちゃ、ぐちゃと音がする。 
「・・・あっ・・・あん・・・んっ・・ああっ・・・」 
動かされる度に出る声が恥ずかしくて唇を噛み締めようとする透をキスであやしながらも彰人は腰を動かし次第に早く深く突き入れてくる。 
「・・・好きだよ、透。・・・好き・・・」 
キスしながら囁く言葉と中で蠢くそれに透は言葉にもならない喘ぎ声しか出せないまま彰人へと必死にしがみつく。 
「ああっ・・・もう・・・」 
「いく?─────俺もだよ・・・」 
耐えきれず眉を顰める透にキスを繰り返しながら彰人は抜き差しを繰り返す。 
奥の奥へと突きいれられ体の中で生温い液体が広がり透は自身の熱をも吐き出す。 
身動きすると繋がってる部分からぬちゅと音がして透は顔を赤く染める。 
キスをしてきた彰人に答え火照った顔のまま体内の彰人が力を取り戻すのを感じて彼へと抱きついた。 
 
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「彰人!・・・こっち。」 
数年振りに帰る故郷の変わった様をぼんやり眺めてた彰人を強引に引きづりひとつの墓の前へと二人で並ぶ。 
買ってきた花を添え手を合わせる彰人を見ながら透は彼に習う。 
「若いんだから、好きなやつ、他にもできたかもしれないのにな・・・」 
呟く彰人に透は手を伸ばす。 
手を握り返され顔を上げた透に彰人は笑みを浮かべ「行こう」と促した。 
 
過去に戻る事は無理だから人は『後悔』する。 
同じことを繰り返さない為に成長するのが人だからリセットはできないけどその分大きく成長できてるはずだから。 
きっと・・・。 
  
散々悩んだんですが・・・へたれだな; 次はもう少し成長したいですね。 20070217
 
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